研究概要 |
インスリン様成長因子II(IGF-II)の病態生理学的意義に関して本年度は以下に示す知見を得た。 低血糖を呈する膵外腫瘍が産生する大分子量IGF-IIの性状 【背景および方法】低血糖を呈する膵外腫瘍(Non-islet cell tumor hypoglycemia:NICTH)の中にはIGF-IIを産生しているものがある。このIGF-II産生NICTHでは大分子量IGF-IIを産生しているが,この大分子量IGF-IIの本態は明らかではない。IGF-IIは156アミノ酸(AA)よりなるproIGF-II(IGF-II(67AA)のC端側に89AAよりなるE-domain)として合成され,processingをうけてE-domainが切断されIGF-IIが生成される。この切断の過程で大分子量IGF-IIが生成されると考えられている。健常人でも少量の大分子量(〜11kDa)のIGF-IIが血中に存在するが,この大分子量IGF-IIはIGF-IIにE-domainのN端側に21AAのついたもの(pro-IGF-II-(E1-21))で,E-domainのThrにO型の糖鎖が結合していると考えられている。我々はNICTHでは大分子量IGF-IIのサイズは約11〜18kDaと症例によって異なるが血清をO-glycosidaseにより処理した後にサイズを検討すると,どの症例のIGF-IIの分子量もほぼ9.5kDaと減少するより,NICTHにおける大分子量IGF-IIはpro-IGF-II-(E1-21)であり,O型糖鎖の違いにより分子量が異なるものと推論した。本研究ではproIGF-IIのE-domainのN端側(E10-21)とC端側(E71-89)を認識する特異抗体を用い,NICTHにおける血中大分子量IGF-IIをWesterin immunoblotで検討した。 【結果】N端側(E10-21)を認識する抗体ではNICTHでは18〜20kDaの免疫活性を認めたが,健常人血清ではごくわずかな免疫活性(〜10kDa)を認めた。C端側(E71-89)抗体ではNICTHでは〜10kDaの免疫活性を認め,この抗体がIGF-IIを認識しないことから,C端fragmentと考えられた【考案】NICTHにおける大分子量IGF-IIはfull lenghth proIGF-IIではなく,そのprocessingの結果生成されるpro-IGF-II-(E1-21)であり,その副産物のC端fragmentも血中に存在することが示唆された。
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