甲状腺から抽出されたFGF-2は血管内皮細胞の増殖を刺激して血管新生を促し、甲状腺濾胞細胞の増殖を刺激する。さらに甲状腺癌の無限の進展にも関与している。しかし、正常の成人の甲状腺は増殖も血管新生も起こらない。これは正常の甲状腺ではFGF-2が利用されないためである。FGF-2は細胞外マトリックスのヘパラン硫酸と結合している。FGF-2とヘパラン硫酸の結合はNaCl 1.5M以上の高塩濃度で遊離する。ところが、バセドウ病の甲状腺や甲状腺乳頭癌では低い塩濃度でも遊離した。このことはバセドウ病の甲状腺や甲状腺乳頭癌では細胞外マトリックスがFGF-2を遊離しやすく、FGF-2が利用されやすい状態になっていると考えられた。甲状腺におけるプロテオグリカンの質的、量的な変化が甲状腺の特有の腫大形態をもたらすという仮説に基づき、種々の疾患における甲状腺プロテオグリカンの解析を行った。手術で得られた甲状腺組織をGuanidine溶液中でホモジネートして抽出したものを、Qセファロース陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。各フラクションのヘパラン硫酸とコンドロイチン硫酸を独自に開発したimmunoblot法により解析した。正常甲状腺のヘパラン硫酸はNaCl 0.8-0.9Mで溶出される硫酸化の低い成分がやや多く、0.9-1.0Mで溶出される硫酸化の高い成分はそれよりも少なかった。甲状腺乳頭癌では硫酸化の低い成分がほとんどで、硫酸化の高い成分は減少していた。一方、バセドウ病甲状腺と腺腫様甲状腺腫では硫酸化の低い成分から高い成分まで一律に認められ、結果的には硫酸化の高い成分が上昇していた。しかし、この増加した成分のFGF-2結合能は性状に比べて低下していた。このことから、バセドウ病甲状腺や甲状腺乳頭癌ではFGF-2結合能の低いプロテオグリカンが作られ、FGF-2が遊離されやすい状態と考えられた。
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