バセドウ病の成因と発症の機構やその甲状腺中毒症の維持・増悪機構は不明である。一方、甲状腺ホルモンは、1型および2型ヨードサイロニン脱ヨード酵素(DlやD2)によって活性化されるが、この酵素の、ヒトでの発現調節機構は不明であった。そこで、ヒト末梢血単核球(PBMC)中のD1遺伝子発現を検討するとともに、ヒト甲状腺細胞内のD1とD2 mRNAを測定することによって、バセドウ病の発症並びに甲状腺中毒症の維持・増悪機構を解明することを目的とした。 正常対照者および、バセドウ病患者のPBMCを分離し、RT-PCRにより、D1 mRNAを特異的に増幅した。さらに、deleted cRNAを使用してD1 mRNAを定量測定した。手術時に得られたバセドウ病甲状腺細胞を各種生理活性物質と共に培養し、D1とD2 mRNAを定量した。また、125I-rT3を用いてD1、D2活性を測定した。 ヒトPBMC中のD1 mRNAはバセドウ病患者で有意に高く、D1 mRNAレベルは血中T3と有意の正相関を示した。PBMCをT3と共に培養すると、D1 mRNAはT3により用量依存性に増加した。ヒト甲状腺D2 mRNAレベルはTSHと(Bu)2cAMP添加によって増加し、その増加はD1 mRNAよりも速くかつ顕著であった。一方、TPAは、D2 mRNAレベルを、(Bu)2cAMPの有る無しにかかわらずに抑制した。 これらのことより、D1酵素遺伝子発現はバセドウ病の増悪機構として重要であること、および、ヒト甲状腺のD2発現は、D1と異なった機序で調節されており、両者がそれぞれ甲状腺中毒症に関与しうることが考えられた。
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