乳癌におけるエストロゲンレセプター(ER)の発現は細胞のホルモン感受性の規定要因の一つであるとともに、ホルモン療法の有効性、さらにはがんの進展に伴うホルモン依存性消失とも関連して臨床的にも非常に重要であるが、その制御機構はほとんど不明である。そこで、乳がんの発生・進展に関連したER遺伝子の転写制御機構の解明を試みた。さらに新たな転写後調節機構の一つであるERのレドックス制御機構や、癌関連遺伝子によるERの機能調節についても解析し、ERと乳癌との関わりについて研究した。 1.乳癌患者組織標品を用いたRT-PCR法による検討から、乳癌特異的なERの過剰発現にはプロモーターBからの転写亢進が重要であることを明らかにした。そこで、プロモーターB上のER遺伝子の発現制御に重要なシスエレメントをレポーターアッセイ、ゲルシフト法などによって5'上流領域に同定し、ERBF-1と名付けた。さらにその結合因子をone-hybrid法、degenerate-PCR法を用いて検索し、C/EBPファミリーの一つ、LAPである可能性が示された。 2.ERの機能がチオレドキシンをエフェクターとするレドックス制御を受けることを明らかにした。 3.Two-hybrid法やGST-pull down法によって癌遺伝子MDM2がERの機能を促進することや癌抑制遺伝子p53がERの機能を抑制することを明らかにした。 以上の研究結果は今後、ERやその周辺を標的とした乳癌のmechanism-based therapyの開発に重要な知見となる。
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