本研究はグルカゴンによるアルドラーゼB(AldB)遺伝子の発現抑制の分子機構を明らかにすることを目的に研究を行った。前年度までに、グルカゴンはcAMP/PKAの刺激伝達系を介してAldB遺伝子の転写抑制をしていることと、AldB遺伝子の-228〜+25塩基の範囲にグルカゴン応答領域があるということを明らかにした。本年度はそれに引き続き、以下の2点について検討を行った。 (1)グルカゴンによるAldB遺伝子の転写抑制に機能するエレメントの同定 グルカゴンはcAMPを介して機能することから、グルカゴン応答領域が存在するAldB遺伝子の-228〜+25塩基の範囲においてcAMP応答エレメント(CRE)を検索したところ、CREに非常に類似したエレメントが2カ所あることを見いだした(CRE-89とCRE+13)。このふたつのエレメントについて実際にグルカゴン応答エレメントとして機能しているかどうかを、ルシフェラーゼアッセイ法とゲルシフトアッセイ法で調べた。その結果、-89塩基からはじまるCRE-89がグルカゴン応答エレメントとして機能していることが明らかになった。グルカゴンにより活性化されたCREB様因子がCRE-89に結合し、転写因子コンプレックスの形成に影響を与えることによってAldB遺伝子の転写を抑制していると考えられた。 (2)AldB遺伝子上流域に存在するインスリン応答性エレメント(IRE)の検索 グルカゴンと反対の働きをもつインスリンはAldB遺伝子の転写を活性化させるが、ルシフェラーゼアッセイ法による検索の結果、AldB遺伝子の-228〜-85塩基の範囲がインスリン応答領域であることがわかった。この範囲内にはこれまでに報告されているIREに類似した配列は見つからず、未知のインスリン応答性エレメントの存在が示唆された。
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