本研究はグルカゴンによるアルドラーゼB(AldB)遺伝子の発現抑制の分子機構を明らかにすることを目的に研究を行い、平成10年度および11年度の研究期間に以下の結果を得た。 (1)グルカゴンのAldB遺伝子転写抑制に到るシグナル伝達様式 プロテインキナーゼA(PKA)の阻害剤であるH-7および細胞内cAMPを上昇させるforskolinやdbc-AMPを用いて初代培養肝細胞で検討した。その結果、グルカゴンはcAMP/PKAの刺激伝達系を介してAldB遺伝子の転写抑制をしていることが明らかとなった。 (2)グルカゴンによるAldB遺伝子の転写抑制に機能するエレメントの同定 AldB遺伝子の5'-上流領域について、いろいろな長さの領域を持つプラスミドを作成して初代培養肝細胞にトランスフェクトし、ルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、AldB遺伝子の-228〜+25塩基の範囲にグルカゴン応答領域があり、この領域にはcAMP応答エレメント(CRE)に非常に類似したエレメントが2カ所あることがわかった(CRE-89とCRE+13)。ルシフェラーゼアッセイ法とゲルシフトアッセイ法による検索の結果、-89塩基からはじまるCRE-89がグルカゴン応答エレメントとして機能していることが明らかになった。グルカゴンにより活性化されたCREB様因子がCRE-89に結合し、転写因子コンプレックスの形成に影響を与えることによってAldB遺伝子の転写を抑制していると考えられた。 (3)AldB遺伝子上流域に存在するインスリン応答性エレメント(IRE)の検索 グルカゴンと反対の働きを持つインスリンはAldB遺伝子の転写を活性化させるが、ルシフェラーゼアッセイ法による検索の結果、AldB遺伝子の-228〜-85塩基の範囲がインスリン応答領域であることがわかった。この範囲内にはこれまでに報告されているIREに類似した配列は見つからず、未知のインスリン応答性エレメントの存在が示唆された。
|