IRS-1はインスリン受容体の主要な基質であり多様なインスリン作用を伝達するSH2ドメインを有するシグナル伝達分子が結合するドッキング蛋白として働く。インスリン刺激はIRS-1のセリン・スレオニンリン酸化を惹起し、電気泳動上のシフトを生じ更に長時間刺激によりIRS-1は分解される。我々はこれらの現象の分子メカニズム及び機能的意義について3T3-L1脂肪細胞を用いて検討した。PI3-キナーゼ阻害薬及びラパマイシンはインスリンによるIRS-1のシフト及び分解の両者を阻害したがMEK阻害薬は影響しなかった。アデノウイルスベクターによりPI3-キナーゼの膜結合型p110サブユニット(P110CAAX)を発現させるとIRS-1のシフト及び分解が生じこれらはラパマイシンにより抑制された。特異的プロテアソーム阻害薬であるラクタシスチンはインスリンによるIRS-1の分解を抑制したがそのシフトには影響しなかった。シフトの抑制によりIRS-1のチロシンリン酸化や下流のインスリンシグナルは影響を受けなかったがIRS-1の分解の抑制により長時間インスリン刺激時のAkt、p70 S6キナーゼ及びMAPキナーゼの活性化は増強された。これらの結果よりインスリンにより惹起されるIRS-1のセリン・スレオニンリン酸化及び分解はPI3-キナーゼの下流のras/MAPキナーゼ経路とは独立したラパマイシン感受性経路を介していることが示された。この経路によりIRS-1のプロテアソームによる分解が生ずることが長時間刺激時のインスリン作用のdown-regulationにおいて主要な役割を果たしていることが明らかとなった。
|