研究概要 |
Vascular endothelial growth factor(VEGF)の血管内皮に対する障害防御機構に関して検討した。既にVEGFのレセプター(Flt-1,KDR/Flk-1)の存在が分かっている培養ウシ胎児大動脈血管内皮細胞(BAEC)をVEGF(1-30ng/ml)で前処置し、酸化的変性低比重リポ蛋白(Ox-LDL)が誘導するBAECへの影響を検討した。VEGFは前処置時間(8時間-72時間)依存性、濃度依存性にOX-LDLの内皮細胞障害を抑制した。前処置なしにVEGFをOx-LDLと同時に投与しても軽度だが内皮細胞障害を抑制した。この同時投与による障害抑制効果はNOS阻害剤であるL-NAMEにより完全に消失した。一方VEGFの前処置による効果はグルタチオン合成阻害剤、BSOにより消失した。実際VEGFの暴露により、BAEC内グルタチオン濃度は時間依存性に増加した。Flt-1のもう一つのリガンドとして知られるplacenta growth factor(PIGF)には内皮細胞の障害抑制作用はなく、細胞内グルタチオンへの影響もなかった。 以上の結果より、VEGFの血管新生誘導作用以外の血管壁での役割が明らかになった。すなわち、血管壁に存在するVEGFはヒト粥状硬化巣に存在し、病変形成に重要な役割を果たすことが知られるOx-LDLの内皮細胞障害を抑制し、動脈硬化進行に対し抑制的に働く可能性がある。その機構にはNOを介する経路と、細胞内グルタチオンを増加させることによる2種類の機構が示唆された。さらに、PIGFにはその作用がないため、上記の機構はVEGF受容体のうちKDR/Flk-1を介している可能性が強い。VEGF受容体と内皮細胞障害抑制機構をさらに明確にするため、現在Flt-1,KDR/Flk-1受容体をそれぞれ単独に発現させる系を作成中である。
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