糖尿病状態において、メサンギウム細胞は、高血糖すなわち高濃度のブドウ糖に曝される(糖負荷)のみならず、糸球体高血圧に起因する圧負荷にも曝されていると考えられる。圧負荷は、メサンギウム細胞を周期的に伸展させ、細胞内に種々の異常を惹起し得ると推定される。従って、糖尿病におけるメサンギウム細胞異常を考える際、糖負荷のみならず圧負荷の影響を解明することが極めて重要であると考えられる。本研究は、メサンギウム細胞に対し糖負荷および圧負荷(周期的伸展刺激)を加え、これらによって生ずるメサンギウム細胞異常を分子レベルで解析することにより、糖尿病性腎症の成因の一端を明確にすることを目的として開始した。平成10年度は主に圧負荷によるメサンギウム細胞異常とその分子機構を、伸展培養器(Flexer Cell)を用いて検討した。その結果以下の点が明らかとなった。1.周期的伸展刺激により、TGF-βおよびfibronectinのmRNA発現が増加し、fibronectinの蛋白産生量も増加した。2.細胞内情報伝達系の解析では、ERKおよびJNKが周期的伸展刺激により時間・伸展強度依存性に活性化された。特にこのERK活性化はprotein tyrosine kinase(PTK)依存性であった。3.周期的伸展刺激により転写因子AP-1のDNA結合能が亢進したが、この亢進はERKを抑制するMEK阻害剤で阻止された。4.周期的伸展刺激により増加するTGF-βおよびfibronectinの発現もMEK阻害剤にて阻止された。以上の成績より、圧負荷により惹起されるメサンギウム細胞異常にはRTK依存性のERK活性化が関与していることが明らかとなった。今後、糖負荷との相互作用に関しその詳細を検討する予定である。
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