研究概要 |
脂肪細胞の成熟分化には、核内転写因子であるC/EBPファミリーと核内受容体PPAR-γが重要な役割を果たすことが知られているが、各々の因子の作用点については不明な点が多い。C/EBP-βおよび‐δを欠失したダブルノックアウトマウス胎児由来線維芽細胞(β(-)δ(-)MEF)は、培養条件下に脂肪細胞分化誘導刺激(インスリン+IBMX+デキサメサゾン)を加えても脂肪細胞への分化が認められない。一方、NIH3T3細胞にPPAR-γを強制発現させると成熟脂肪細胞への分化が認められるが、この現象にC/EBPファミリーが必須の因子であるか否かは不明であった。本研究では、β(-)δ(-)MEFが、PPAR-γを強制発現することにより脂肪細胞に分化し得るか否かについての解析を行った。 β(-)δ(-)MEF(胎生14.5日令マウスより樹立)を10%FCSを含む培地下に培養し、これにPPAR-γ2発現アデノウィルスベクターを感染させた後、上記の分化誘導刺激を行った。その結果、同細胞は、oil red Oで染まる脂肪滴を細胞質に多く含有する脂肪細胞形態を呈するようになり、aP2・GLUT4・SCD-1mRNAの発現も増加していた。同様にチアゾリジン誘導体(トログリタゾン)や15-deoxy-Δ^<12,14>-PGJ_2の添加によっても、β(-)δ(-)MEFは上記の成熟脂肪細胞の特質を獲得した。 以上の結果より、PPAR-γを強制発現させそのリガンドや上記分化誘導刺激を加えると、C/EBP-βおよび‐δ非存在下でも成熟脂肪細胞へ分化し得ることが判明した。すなわち、脂肪細胞の分化過程ではC/EBP-β,-δはPPAR-γより上流で作用しており、PPAR-γによる脂肪細胞分化の最終段階ではC/EBP-β,-δの存在は必須でないことが初めて明らかとなった。
|