研究概要 |
脂肪細胞の分化には、核内転写因子であるC/EBPファミリーと核内受容体PPAR-γが重要な役割を果たしている。脂肪細胞の分化に伴って種々の遺伝子発現が観察され、これらは成熟脂肪細胞の細胞生物学的特徴の一端を担っている。しかし、脂肪細胞分化に伴うこれら各々の遺伝子発現に対するC/EBPファミリーとPPAR-γの作用点については明らかでなかった。 我々は、成熟脂肪細胞において発現するSCD-1遺伝子の発現量が、PPAR-γの活性化剤であるチアゾリジン誘導体により減少することを見出した。このことは、成熟脂肪細胞への形態的分化とSCD-1発現という二種類の現象が、PPAR-γによって異なった制御を受けている可能性を示唆するものである。そこで、脂肪細胞の形態的分化と成熟脂肪細胞特異的遺伝子発現に及ぼすC/EBPファミリーとPPAR-γの役割を明らかにする目的で、C/EBP-β、-δダブルノックアウトマウス由来胎児線維芽細胞を用いた実験を行った。本細胞にPPAR-γ発現アデノウイルスベクターを感染させ、チアゾリジン誘導体や15-deoxy-Δ^<12,14>-PGJ_2で刺激したところ、成熟脂肪細胞への分化が確認された。このとき、SCD-1、LPL、aP2 mRNAの発現量の増大が認められた。しかしながら、LPL mRNA量は野生型マウス由来胎児線維芽細胞に比較して低下しているのに対し、SCD-1およびaP2 mRNA量には有意の差を認めなかった。また、PPAR-γの強制発現によりC/EBP-αの発現増加も認められた。したがって、成熟脂肪細胞への形態的分化やSCD-1およびaP2の遺伝子発現にはPPAR-γとC/EBP-αの発現があればC/EBP-β、-δは必須でないこと、LPL遺伝子の発現にはC/EBP-β、-δも必要であることが判明した。
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