研究概要 |
肝・筋・脂肪細胞など代表的なインスリン標的細胞に加え、膵β細胞もインスリン受容体を有する点においてインスリン標的細胞とみなしうる。 今回、インスリン標的細胞における糖・脂肪両毒性成立の分子機構解明にあたり、グルコース応答性のインスリン分泌能を有するMIN6細胞を用いて以下の検討を行った。当初作成したGFAT過剰発現MIN6細胞株ではGFAT酵素量の定量化が困難であったため、これに変えてGlucose-6-phsphatase(G6Pase)過剰発現細胞を作成し、糖毒性の影響を観察した。 G6PaseはGlucokinase(GK)とともにグルコースサイクリングを形成し、細胞内グルコース濃度環境の恒常化に関与している糖新生系酵素であるが、高糖濃度条件(糖毒性影響)下では、upregulationされることが報告されている。すなわち、細胞内へのglucose fluxが減少することでグルコース応答性インスリン分泌が低下することが予想されるが、本基盤研究においてG6Pase過剰発現細胞は高糖濃度環境でインスリン分泌の低下を示し、このとき細胞内ATP産生の減少を伴うことを確認した。 さらに、脂肪毒性の分子機構を解明するべく遊離脂肪酸(FFA)添加状態で2-7日間マウス膵β細胞株MIN6を培養したところ、glucose応答性insulin分泌が制御された。この際の膵β細胞内のFFA代謝に伴う生化学的変化も同時に分析した。palmitate添加群は非添加群に比し、(1)2-3H-glucose,6-3H-glucose利用能,glycerol phosphate shuttle活性は差を認めなかったが、乳酸産生量は増加した。(2)細胞内FFA、中性脂肪含量、脂肪酸のβ酸化は増加したが、glucoseもしくはpalmitateの脂質分画への取り込みは減少した。(3)細胞内calcium濃度変化やNAD(P)H増加率は軽度低下した。(4)pyruvate carboxylase蛋白量は添加したpalmitateの濃度依存症に低下したが、palmitate除去および2-Br-palmitate添加で改善した。(5)insulinの細胞内含量およびglucose応答性insulin分泌はpalmitateの濃度依存性に減少した。(6)glucose,pyruvate刺激によるinsulin分泌増加率は低下したが、KCl,methyl-succinateに対する反応には差を認めなかった。 今回の検討ではβ酸化の亢進とともに、Pyruvate carboxylase蛋白の低下を来していた。この低下がFFAによるglucose応答性insulin分泌抑制すなわち脂肪毒性の分子機構に関与すると考えられた。
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