研究概要 |
HNF1_αの変異により発症するMODY3の患者ではインスリン分泌障害が認められる.この分子機構を明らかにするために,MODY3患者で同定されたP291fsinsC変異に相当する変異HNF1_αを発現するアデノウイルスAdex1CA-HNF1_α-288tを作成した.この組み換えアデノウイルスにより変異HNF1_αをHepG2細胞に過剰発現すると,HNF1_αの標的遺伝子である_α 1-antitrypsin遺伝子やphenylalanine hydroxylase遺伝子の発現が抑制され,HNF1_α-288tは,dominant negative効果により内因性のHNF1_αの機能を抑制することが示された.次に,Adex1CA-HNF1_α-288tおよびコントロールとしてAdex1CA-lacZをMIN6細胞に感染後,各種刺激下でのインスリン分泌を解析した. Adex1CA-HNF1_α-288t感染MIN6細胞(MIN6-HNF1-290t)とAdex1CA-lacZ感染MIN6細胞(MIN6-HNF1-lacZ)との間には,25mM glucose刺激によるインスリン分泌に有意差を認めなかった.同様に,5mM glucose存在下での20mM leucine刺激においてもインスリン分泌に差はなかった.しかし,5mM及び25mM glucose存在下での20mM arginine刺激では,MIN6-288tのインスリン分泌は著しく抑制された.この効果は非代謝性のarginine analogueであるhomoarginine刺激でも認められたが,直接,細胞膜電位の脱分極を誘導する50mM KCl刺激においてはMIN6-288tとMIN6-HNF1-lacZでインスリン分泌に差は認められなかった.我々の結果は,HNF1_αの機能障害により,β細胞ではarginineによるインスリン分泌増強効果の選択的な障害をきたし,glucoseの細胞内代謝とATP産生を介するインスリン分泌機構の基本構造には異常がないことを示す.このユニークなインスリン分泌障害の分子メカニズムについてさらに解析を進めている.
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