研究概要 |
膵β細胞からのインスリン分泌障害は,糖尿病の発症を規定する重要な因子のひとつである.膵β細胞の発生,分化,及び再生を規定する因子についての解析を進めるアプローチのひとつとして,本研究期間にはβ細胞の"mass"の異常をきたす疾患について発症の分子メカニズムの解析を行った.Wolfram症候群はl型糖尿病に視神経萎縮,感音性確聴,尿崩症,精神神経学的異常などを合併する常染色体劣性遺伝性疾患である.患者のラ氏島でβ細胞が選択的に消失することが報告されている.我々はWolfram症候群の原因遺伝子WFS1を同定した.WFSI遺伝子産物は890のアミノ酸よりなり,その構造より膜蛋白であると考えられるが,技能は明かでない.WFSl蛋白の機能の解明のための第1段階として,その中枢神経組織内及び細胞内での局在の解析を行った.WFSl蛋白は,マウスの中枢神経組織では,嗅結節,扁桃体,梨状皮質及び海馬(CAl)に強い発現が認められた.その他,弓状核や大脳皮皮質第2層にも発現が認められた.細胞内では,WFSl蛋白は主としてmicrosome分画、特にERに局在することが示唆された.一方,新生児期に高インスリン血症性低血糖症をきたすpersistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy(PHHI)患者ではβ細胞の過形成をきたすことが知られている.PHHI患者の一部ではATP感受性カリウムチャネルを構成するスルフォニル尿素剤受容体(SUR1)遺伝子やKir6.2遺伝子に変異が同定されている.我々は日本人のPHHI患者においてSUR-1遺伝子の解析を行い,3種類の変異を同定した.さらにこれらの変異SUR1より再構成されるATP感受性カリウムチャネルの機能解析を行い,そのうちの1つの変異(R1420C)では,アデニンヌクレオチドのSUR1への協調的結合が障害され,そのためにATP感受性カリウムチャネルの活性化(開放)障害をきたし,持続性のインスリン分泌を引き起こしていることが明かとなった.
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