膵β細胞のATP感受性K^+チャネル(KATPチャネル)はインスリン分泌機構において極めて重要な働きをしている。このチャネルはβ細胞の静止膜電位を決定しているイオンチャネルであり、このチャネルの抑制はグルコース刺激時にみられる最初のβ細胞膜応答である。一方、スルフォニル尿素(SU)剤はその固有のレセプターに結合することによりK―ATPチャネルの抑制をもたらし、インスリン分泌を刺激することが知られている。 ATP感受性K^+チャネルのサブユニットであるスルフォニル尿素レセプター(SUR)、内向き整流性K^+チャネル(Kir6.2)蛋白間の情報伝達機序を明らかにすることを目的として本研究を遂行し以下の実績を得た。 1)トルブタミド(スルフォニル尿素薬)はKATPチャネルを抑制するが、細胞膜を高濃度のCa^<2+>(2mM)で処理すると本薬剤に対する感受性を減少した。 2)この時、チャネルのADPによって活性化される作用も同時に消失していた。 3)しかし、ATPによるチャネル抑制作用は保たれていた。 4)膜リン脂質であるPIP2はこのCa^<2+>によるチャネル蛋白性質の変容作用を防止した。 5)これらの結果から、Ca^<2+>は膜内のPIP2の濃度を減少させることによりチャネルのトルブタミドとADPに対する感受性に変化を及ぼすことが考えられた。このことはSURからKir6.2への信号の伝達過程にPIP2が必要であることを示唆する。また、細胞内ATPはPIP2と共同してこれらSUR/Kir6.2蛋白間の機能的連関を保持する作用があることも明らかになった。 6)また、心臓においても同様なチャネルが発現しているが、PIP2を減少させる作用を細胞外受容体(ATP受容体)を介して適用すると、KATPチャネルの活動の著明な低下がみられた。これらの研究成果は第41回日本糖尿病学会総会、第58回米国糖尿病学会、第64回日本循環器学会にて発表した。
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