研究概要 |
NODマウスを用いた研究等により,l型糖尿病におけるβ細胞傷害がFas-Fas ligand系によるアポトーシスであることが示唆されている。しかし,β細胞におけるFasのシグナル伝達系は明らかではない。そこでhuman Fas cDNAを含むpCR3プラスミドをリポフェクチン法によりβTCl細胞にtransfectし,Geneticin存在下で培養することにより,flow cytometryで細胞表面にヒトFas発現が認められるクローンを得た。このβ細胞クローン(hFas/βTC1)はFas抗体処理によりクロマチン濃縮,核の断片化,DNAのラダー状切断,annexin Vによる染色などアポトーシスに特徴的な所見を呈した。 Triton-X100により細胞を可溶化し,遠沈上清のcaspase-1活性およびcaspasc-3活性を蛍光器質を用いて測定したところ,Fas抗体添加の2時間後以降caspasc3様活性が上昇したが,caspasc l様活性は検出されなかった。また,caspase3阻害剤はFas抗体によるアポトーシスを抑制したが,caslpase1阻害剤は無効であった。さらに,caspase3のantisense DNAをhFas/βTCl細胞に導入しcaspase3活性を抑制したところ,Fas抗体によるアポトーシスの減弱が認められた。対照として行ったscnseDNAの導入ではアポトーシス抑制効果はみられなかった。 多くの細胞種ではcaspase1の活性化がcaspase3活性化に先行するが,β cell lineではFasによるシグナルがcaspase1を介さずにcaspase3を活性化することが示された。caspase3の阻害によりβ細胞アポトヘーシスが減弱したことは,l型糖尿病におけるβ細胞傷害を抑制する手段を開発する手がかりになると考えられる。
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