〈障害血管壁での増殖因子のクロストーク〜アンギオテンシンIIとPDGF〉 内膜肥厚の形成には様々な増殖因子が複雑に関与しているが、PDGFとアンギオテンシン(ATII)は重要な役割を果たしているものの、両者の関連は全く不明であった。障害血管内平滑筋細胞は形成変換をおこしており、従来の培養平滑筋細胞ではおこらない反応をおこす。そこで、ラット頚動脈に内皮剥離障害を加え、形成された肥厚内膜より樹立した内膜肥厚細胞を用いてATIIとPDGFとの関連を調べた。この細胞ではATII刺激によりPDGF-B遺伝子の発現が引き起こされPDGF-Bタンパクの発現を確認した。特異的な受容体阻害剤を用いて、その作用がアンギオテンシンII-1型受容体を介する反応であることを明らかにした。更にその情報伝達系を解明した。一般的に、増殖因子からの刺激が遺伝子発現を引き起こすとき、MAPK(ERK、JNK、p38MAPK)を経由することが知られている。従って、このPDGF-B発現誘導もこの3つのMAPKのいずれかを経由すると考えられた。まず、私たちはATIIはERK、JNK、p38MAPK、いずれも活性化することをつきとめた。特異的阻害剤を用いると、ATIIによるPDGF-B遺伝子発現がERKに依存することがわかった。また、PDGF-B遺伝子のプロモーター領賊をコードする遺伝子を組み込んだルシフェラーゼレポーターベクターを作成し、細胞に遺伝子導入してルシフェラーゼ活性を測定すると、PDGF-B鎖mRNAの増加は転写促進によるものであることが明らかになった。さらに、各MAPキナーゼ優性抑制型変異体を遺伝子導入して、PDGF-B鎖遺伝子プロモーター活性を評価するとERKとJNKの変異体がATIIによるPDGF-B鎖遺伝子プロモーター活性を抑制し、ERKとともにJNKもATIIによるPDGF-B鎖遺伝子発現には必要であることが明らかとなった。
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