本研究の目的はTPN(total paraenteral nutrition)施行時のBT(bacterial translocation)と腸管粘液量との関係を検討し、腸管粘液分泌促進によるBTの抑制効果を明らかにすることにある。実験を、1)新しいBTの評価法として鼠チフス菌回腸ループ内投与モデルを開発し実用化すること、2)画像解析装置を用いて腸管粘液の定量測定し評価する方法を確立すること、3)鼠チフス菌回腸ループ内投与モデルを用いてTPN施行時のBTと腸管粘液量の定量的変化を評価すること、の3つのステップで進めた。ステップ1)2)は平成10年度に、ステップ3)は平成11年度に完了した。 1.鼠チフス菌回腸ループ内投与モデルによるBTの評価法の確立 ラットの右頚静脈より顕微鏡下にカテーテルを上大静脈まで留置し固定し、そのカテーテルを皮下トンネルを介して項部より対外に誘導し輸液ルートに連結して2週間個別にTPN下に飼育可能な飼育システムを確立した。続いて、2週間飼育したTPN群と対照群の間に栄養状態の差が生じないような各群の投与カロリーと水分量を決定した。 2.画像解析装置を用いた腸管粘液の定量測定法の確立 上記1.の2群の終末回腸より組織標本を作成し、HE・PAS・Alcian-blue染色を施行した。染色標本の顕微鏡像を顕微鏡カラーテレビ装置でモニターしつつコンピューターに取り込み、専用ソフトウエアーを用いて、腸管形態と腸管粘液量を定量測定する方法を確立した。 3.鼠チフス菌回腸ループ内投与モデルを用いたTPN施行時のBTと腸管粘液量の定量的変化の評価 上記1.モデルに準じてTPN下に2週間飼育したラットと対照群を作成した。2週間の飼育後、両群に対し開腹下に回腸末端に作成したclosed loop内に鼠チフス菌を注入した。注入後、経時的に門脈血と下大静脈血および腸間膜リンパ節を採取し、translocateした細菌数を鼠チフス菌を対象とした培養法により定量測定してBTを評価した。その結果、TPN群では対照群に比し有意にBTが高率に生じることを確認した。両群の終末回腸より組織標本を作成し、HE・PAS・Alcian-blue・FITC-UEA-I染色を施行した。染色標本の顕微鏡像を顕微鏡カラーテレビ装置でモニターしつつコンピューターに取り込み、専用ソフトウエアーを用いて、腸管形態と腸管粘液量を定量測定した。その結果、TPN群では対照群に比し有意に腸管が萎縮し粘液量が減少していることが確認された。以上よりラット回腸では2週間のTPNにより有意に高率にBTが生じるとともに有意な腸管萎縮と粘液量の減少が生じることが判明した。
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