研究概要 |
多発性内分泌腫瘍症2型の原因遺伝子としてret遺伝子が同定されたが、MEN2A及び2B型変異を導入したret遺伝子をNIH3T3細胞に発現させると、変異Ret蛋白は活性化され細胞のトランスフォームを引き起こすことからも、MEN2A及び2B型変異が多発性内分泌腫瘍症2型において甲状腺髄様癌などの腫瘍発生に第一義的な要因であると考えられている。MEN2A型変異はリガンド非依存性の2量体形成を誘導することによりRet蛋白を活性化し、MEN2B型変異は単量体のままでRet蛋白の活性化を誘導することを示してきた。Ret蛋白はレセプター型チロシンキナーゼであるが、活性化されたシグナル伝達が細胞内でどのような経路で伝わっていくのかは明らかではなかった。レセプター型チロシンキナーゼのシグナル伝達に重要な役割を担っているRas-MAPキナーゼ系のアダプター蛋白であるShcに着目し、Ret蛋白との結合性について検討したところ、ShcはMEN2A,2B型変異Ret蛋白と結合することを示した。Shcはリン酸化チロシン残基を認識するPTB,SH2の2つのドメインを有するが、どちらのドメインが変異Ret蛋白と結合するかを、GST融合蛋白を作製しin vitro binding assayで解析した。その結果、Shcは主にPTPドメインで変異Ret蛋白と結合することが判明した。次にHA tagを付加したShc PTB及びSH2ドメインのみをコードするDNAをそれぞれ作製し、これを変異Ret蛋白を発現する細胞系に導入しin vivoでの結合も確認した。これらの結果からShcアダプター蛋白はMEN2A,2B型Ret蛋白からのシグナル伝達に関与し、PTBドメインがその結合に関わっていることが示唆された。
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