研究概要 |
腹部大動脈瘤(AAA)の病態では、matrix metalloproteinase(MMP)の過剰産生による動脈壁、特にエラスチンの破壊が重視されている。本研究は、MMPの特異的抑制物質であるtissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP)を強制的に発現させてMMPを抑制し、AAAの発展を阻止する治療法の開発を前提とした基礎研究である。 平成10年度は、ヒトAAA壁を培養し、MMPsとTIMP-1の発現を検討した。その結果、MMP-1とMMP-9の発現はAAA群で対照群より有意に亢進していた(P<0.01)。また、TIMP-1の発現はAAA群で対照群より亢進していた。そこで、TIMP-1遺伝子導入してMMP産生を抑制する実験に先立ち、薬理学的にMMPを抑制するとされるDoxycyclineの効果を検討した。その結果、Doxycycline非投与群に比し、Doxycycline投与群でMMP-9は容量依存性に抑制された。一方、TIMP-1の濃度はDoxycyclineに左右されず、DoxycyclineはTIMP-1を介さずに、MMPを抑制すると考えられた。 平成11,12年度は、ヒトAAA壁を用いて、動脈壁のエラスチン代謝に関与するMMP-2、MMP-9、TIMP-1の発現を検討した。45mm以下のものを小径の動脈瘤、45mmより大きいものを中・大径の動脈瘤と定義した。その結果、タンパク、mRNAレベルにおいて、MMP-2は小径瘤で、MMP-9は小径瘤、中・大径瘤でそれぞれ対照より有意に高かった。AAA、特に中・大径の動脈瘤において、MMP-2はMMP-9と有意な相関を認めた。一方、TIMP-1はMMP-9とMMP-2とに有意な相関があった。したがって、動脈瘤がさらに成長する上で、MMP-2とMMP-9とは協調して作用している可能性が考えられた。また、TIMP-1はエラスチン代謝におけるMMP-2とMMP-9を抑制し、動脈瘤の拡大及び破裂を防いでいる可能性が示唆された。
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