悪液質や腫瘍随伴症候群を有する担癌患者において、癌細胞によって持続的に産生されるTNF-α、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインが、癌患者の感染に対する感受性にどのように影響をあたえるかは、担癌患者の感染対策に重要である。本研究では、サイトカイン産生腫瘍担癌マウスのエンドトキシン感受性変化の解析ならびに引き起こされる臓器変化の病理学的検討を行った。 IL-6高産生性株であるcolon26のclone5および低産生性株であるclone20を移植されたマウスの体重はclone20群で著明に減少し、悪液質が認められた。生存率については、clone20のLPS投与群がclone5のLPS投与群に比し、短い傾向があった。マウス血清中のIL-6濃度はclone5群が200pg/ml、clone20群が600pg/mlであった。TUNEL法を用いた組織学的な臓器障害の検討では、どの臓器においてもapoptosisは認められなかった。次にLPSの投与量を増加させ、同様の観察を行った。生存率はコントロールの非担癌マウスおよびclone5担癌マウスでは約50%であったのに対し、clone20担癌マウス群では、逆にこの急性死亡率が低下した。各群のLPS投与後48時間の血清中TNF-α、IL-1β、IL-6をELISA法を用いて測定した結果、clone20担癌マウス群でIL-6が低い傾向が認められた。重要臓器のICAM-1の免疫染色の結果、LPS投与群の非担癌マウスの肺においてのみ、ICAM-1の発現が認められた。同じ量のLPSを投与したclone5やclone20担癌マウスでは、有意なICAM-1の発現は認められなかった。 以上の結果は、癌患者の高炎症性サイトカイン血症状態が、必ずしも感染に対する臓器不全を誘導するとはかぎらず、サイトカイン産生腫瘍担癌マウスの臓器不全の予防として、単純に腫瘍由来の炎症性サイトカイン産生の制御が有効とは限らないことを示している。
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