研究概要 |
我々はマウス悪性黒色腫B16メラノーマ細胞の二つの異なる転移能を有する細胞亜株間のディファレンシャルスクリーニングによって,血行性転移に関与する転移関連遺伝子TI241を単離した。この遺伝子を低転移性細胞株に導入することでその肺への血行性転移能の増強を確認した。本研究ではこのTI241のヒューマンホモログであるATF3アンチセンスオリゴヌクレオチドの,ヒト大腸癌細胞HT29の増殖・転移能に与える影響を調べ,その遺伝子治療への応用の可能性を探ることを目的としている。 ATF3全長の複数箇所に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製し,その効果を蛋白レベルの低下によって確認したところ3'末端に作製したものの効果が最も大きく,培養上清中ではその効果は72時間後まで持続することを確認した。さらにその培養上清中にATF3アンチセンスオリゴヌクレオチドを添加し,トランスウエルを用いた浸潤能の測定することによって,アンチセンスが無添加およびセンス添加に比べて明らかに浸潤を阻害することを見出した。同様にシャーレへの接着数をカウン卜することによって,アンチセンスが他のコントロールに比してHT29細胞のフロアーへの接着を有意に阻害することを観察した。アンチセンスはHT29の増殖自体には変化を与えず,浸潤や接着など転移にかかわる性質を変化させるものの,増殖抑制効果はないと考えられた。しかしながら,HT29細胞の血行性転移先臓器が皮膚であることから,そのモデル系としてアンチセンスオリゴヌクレオチドを腫瘍とともにヌードマウスに皮下注したところ,腫瘍形成は阻害され,in vivoでの抗腫瘍効果があることを見出した。上述のようにアンチセンスオリゴ自体に増殖抑制効果がなく,ヌードマウスではNK細胞活性などの免疫活性が残存していることから,この抗腫瘍効果には免疫系が関与していることが推察された。 以上の結果をまとめて現在,英文雑誌投稿中である。さらに現在,この免疫系の関与について研究を進めており,同時に腫瘍免疫を利用したワクチン開発の可能性を探っている。
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