研究概要 |
潰瘍性大腸炎に合併した大腸癌に対して手術施行された12症例を対象として、大腸癌およびdysplasia(DS)における遺伝子変異を明らかにすることを目的とした。癌およびDSについて、5番染色体長腕(APC遺伝子)、17番染色体短腕(p53遺伝子)、さらに8番、18番、22番染色体の欠失(LOH)を検討した。Microsatellite makerとして、(D5S346, (AC)10, Mfd27, TP53, NEFL, D8S254, D18S55, IL2RB)を用いた。更に、これらのマーカーおよびBAT26にてMSI(Microsatellite Instability)を評価した。LOHの頻度は、5番染色体長腕36%(4/11)(癌50%,DS 29%)、17番染色体短腕67%(8/12)(癌80%,DS 57%)、8番染色体短腕59%(10/17)(癌71%,DS 50%)、18番染色体長腕0%(0/3)(DS 0%)、22番染色体長腕0%(0/3)(癌0%,DS 0%)に認められた。MSIは17病変何れにも認められなかった。以上の結果から、潰瘍性大腸炎合併大腸癌およびDSでは、17番染色体短腕および8番染色体短腕のLOHの頻度が高く認められた。LOHは何れもDSよりも癌の方が高率であった。17番染色体短腕のLOHからは、潰瘍性大腸炎合併大腸腫瘍において、腫瘍形成にp53遺伝子が関与している可能性が考えられた。また、8番染色体短腕LOHに関しては、これまでに報告は少なく、今後の検討が必要と考えられる。癌、DSともにMSIを呈した病変は存在せず、潰瘍性大腸炎の腫瘍形成においてMSIが関与している可能性は高くないものと考えられた。
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