研究概要 |
近年,家族性胃癌の発癌機構が注目されており、我々はすでにマイクロサテライト不安定性(MSI)陽性の家族性胃癌の存在を報告した。今回、さらにMSIの標的遺伝子における1塩基の繰り返し配列部位を検索した。また、最近E-cadherinの生殖細胞変異が外国の家族性胃癌家系で報告された。そこで、日本人家系におけるE-cadherin遺伝子について解析をした。 発端者及びその第一度ならびに第二度近親者を含めて3人以上の胃癌患者が認められた14家系16症例を対象とし、癌組織および正常粘膜、血液細胞からDNAを抽出した。MSI標的遺伝子であるTGF-βII型レセプター(RII)の(A)10部位、IGF2Rの(G)8部位、BAXの(G)8部位についてそれぞれPCR-SSCP法で解析した。さらにDNAミスマッチ修復遺伝子の中で、コード領域内に1塩基の繰り返し配列をもつhMSH3(A)8、hMSH6(C)8およびhPMS2(A)8についても調べた。またE-cadherin遺伝子について全コード領域をPCR-SSCP法にて解析した。 TGFβRIIの(A)10部位に1例、IGF2Rの(G)_8部位に1例それぞれ異常が認められたが、他の遺伝子については異常は検出されなかった。従って、異常のみられた家族性胃癌の一部では、HNPCCと類似した発癌機構が推測された。また,E-cadherinは今回全コード領域のエクソンについて検索したが、異常は認められなかった。日本人家系における家族性胃癌にはE-cadherinの異常は少ないものと思われた。今後、さらなる症例の集積とE-cadherin以外の原因遺伝子の解明が必要と思われる。
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