研究概要 |
1. in vitroでリトコール酸を含む17種類の胆汁酸の真核細胞DNAポリメラーゼa,b,g,d及びeに対する阻害活性の有無について酵素学的に検討し次の結果を得た。リトコール酸とその誘導体のみがDNAポリメラーゼ阻害活性を示した。リトコール酸のDNAポリメラーゼbに対する阻害活性が最強であり阻害剤定数は10mMであり、鋳型DNAと非競合阻害、基質と競合阻害を示した。胆汁酸のステロール骨格のC-7とC-12の化学構造が重要であった。DNA複製阻害の観点からはリトコール酸は複製系酵素であるDNAポリメラーゼaに対しては中等度の阻害活性を示し、DNAポリメラーゼdに対しては阻害活性を示さなかった。また複製あるいは修復(紫外線照射後のヌクレオチド除去修復)で働くDNAポリメラーゼeに対しては弱い阻害活性を示すのみであった。またミトコンドリアDNA複製酵素であるDNAポリメラーゼgに対しては弱い阻害活性を示すのみであった。 2. 培養細胞系(K562細胞)でモノメチル化剤投与後あるいは紫外線照射後、胆汁酸を追加し細胞障害を増強するか否かを検討し次の結果を得た。リトコール酸は紫外線照射による細胞障害を増強しなかったが、モノメチル化剤のひとつであるメチルメタンスルホン酸の細胞障害を弱いながら増強した。このことはin vitroでリトコール酸がDNAポリメラーゼbに対し強い阻害活性を示し、DNAポリメラーゼeに対しては強い阻害活性を示さないことと矛盾しない結果であった。 1、2の結果よりリトコール酸はDNAのモノメチル化障害の修復経路のひとつである塩基除去修復系で働くDNAポリメラーゼbを阻害することによって、アルキル化剤によって誘発された大腸発癌を促進する可能性が示唆された。
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