研究概要 |
(1)膵癌細胞株(AsPC-1,BxPC-3)を用いてBoyden chamberによるmigration assayとgrowth assayを行った.癌細胞遊走刺激因子として神経組織に豊富に存在すると思われるNGF(nerve growth factor)に着目した.この実験でNGFには膵癌細胞株に対する遊走刺激亢進作用は認められなかった.また細胞増殖効果もみられずNGFが癌細胞の神経細胞湿潤に大きな影響を与えていないことが示された.(2)PC-12は褐色細胞腫由来の細胞株で神経細胞としての性格を持っており,NGF刺激下で神経細胞様に分化する.PC-12をBoyden chamberの下層で神経細胞に分化増殖させ上層に膵癌細胞をおきmigration assayを行った.この実験で遊走の増進は認められず,PC-12神経細胞の遊走刺激物質分泌は否定的であることが示された.(3)神経細胞に存在するNCAMは細胞接着因子でhomologousに接合することにより癌細胞の神経組織における増殖を促進している可能性がある.膵癌組織におけるNCAM発現と臨床病理学的因子を比較検討するために手術切除によって得た膵癌症例についてNCAMの発現を免疫組織化学的手法を用いて検討した.40症例の60%にNCAM発現を認め,局所再発との関連が示唆された.膵癌細胞株でのNCAM発現をwestern blotting,RT-PCR法を用いて検討し,膵癌細胞株でNCAM発現を認めた.(4)手術中に膵癌神経湿潤の有無を判定するためにcytokeration19術中迅速染色法を検討した.この方法により,神経組織中に散乱したHE染色では判定困難な微小膵癌転移を手術中に発見し,追加治療の必要性の判定に応用できる可能性が示された.
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