β-カテニンの遺伝子異常は、大腸癌をはじめ、種々の腫瘍の発生に関与していることが明らかにされている。つまりβ-カテニンのエクソン3に存在するセリンあるいはスレオニン部位の変異によってβ-カテニンの分解阻害が生じ、蓄積したβ-カテニンによってもたらされる転写の亢進が、腫瘍の発生に関与していると考えられている。われわれはマウスの線維芽細胞由来のL-cellに、正常型β-カテニンあるいはエクソン3を欠損した変異型β-カテニンを導入し、安定発現株を樹立した(それぞれLNcell、LMcell)。導入遺伝子は、テトラサイクリンによって発現が抑制される発現誘導型のベクターにクローニングし、リポゾーム法にて導入した。その結果、樹立した細胞株では、RT-PCR法においてLNcell、LMcellともに同量の導入β-カテニンのmRNAが発現していたが、LMcellでは導入した変異蛋白の著名な蓄積が認められた。細胞増殖率には差は認めなかったが、LMcellではLNcellに比べて重層化する発育形態と、血清要求性の低下が認められた。この変化はテトラサイクリンによって変異β-カテニンの発現を抑制すると消失することから、β-カテニンによってもたらされる変化と考えられた。この系を用いて、LNcell、LMcell(種々の濃度のテトラサイクリンによってβ-カテニンを誘導)を用いてディファレンシャルディスプレー法を行い、各cell line間で発現量に差のある遺伝子断片を単離した。各遺伝子断片についてRT-PCRあるいはNorthern法を行ったところ、複数の遺伝子についてその発現がβ-カテニンによって誘導あるいは抑制されることが確認された。現在それぞれの遺伝子について機能解析を進めている。
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