研究概要 |
食道癌発癌にはタバコ、アルコール等の環境因子が大きく関わっている。環境に存在する発癌物質の多くはそのままでは不活性型で薬物代謝酵素により活性化や解毒化を受ける。薬物代謝酵素には遺伝子多型が存在し遺伝的な活性化能や解毒化能の違いが発癌感受性を決定している可能性がある。 平成10年度は活性化に関与する酵素としてチトクロムP450(CYP)1A1,2E1、解毒化に関与する酵素としてグルタチオンSトランスフェラーゼM(GSTM1)、N-アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)、グルタチオンSトランスフェラーゼP(GSTP)について各遺伝子型の頻度を健常人と食道癌患者で比較検討し、NAT2のslow or intermediate acetylator type(オッズ比3.0)とGSTPのAAtype(オッズ比8.0)が食道発癌の危険因子であることを明らかにした。(Morita S.et al. Int J Cancer 79,517-520,1998) 平成11年度は、食道癌と重複する頻度が高い頭頚部癌患者に対して同様の検討を行った結果、喉頭癌では食道癌と同様NAT2のslow or intermediate acetylator type(オッズ比2.7)とGSTPのAAtype(オッズ比2.4)が発癌危険因子であり、咽頭癌ではCYP1A1のVal/Val typeが危険因子(オッズ比5.7)であることを見いだした。(Morita S.et al. Int J Cancer 80,685-688,1999)アルコール代謝を触媒するacetaldehyde dehydrogenase 2(ALDH2)にも遺伝子多型が存在しwild typeのALDH2 1^*に比べてvariant typeのALDH2 2^*は活性が低くacetaldehydeが蓄積されやすい。そこでALDH2の遺伝子多型についても検討したが、食道癌(オッズ比5.2)と喉頭癌(オッズ比2.8)でheterozygote(^*1/^*2)が有意に高頻度であり発癌危険因子と考えられた。 現在、他の薬物代謝酵素やDNA修復酵素遺伝子(O6-methyl guanine methyltransferase)についても検討中であり、今後さらに研究を進めることで、食道発癌の感受性を決定する因子の解明に努めたい。
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