固形腫瘍が発育増殖するとき、多くの腫瘍細胞は低酸素、低栄養状態にさらされる。腫瘍細胞がこのような環境に順応し増殖するためにはVEGFやiNOS等の遺伝子発現が必須とされている。このような遺伝子の多くは転写レベルで、hypoxia inducible factor-1(HIF-1)の調節を受けている。そこで、HIF-1の変異遺伝子を腫瘍に遺伝子導入することにより、dominant negative効果がえられ、腫瘍の退縮、発育抑制を促しうると考えられる。最終的にHIF-1の変異遺伝子導入を作成し、これによる新たな癌遺伝子治療の開発を目的として研究を行っている。 我々はまず、HIF-1の活性化の調節機序、HIF-1活性による細胞のviabilityの変化に着目して研究を行った。その結果、1)HIF-1活性化には細胞のredox状態が関与していること、2)p53がその調節に関与していること、3)さらに、NOも調節機構に関与していることを見いだした。 また、肝癌モデルラットを作成し、癌のHIF-1活性、VEGF発現を検討し、癌と正常肝の境界が強いHIF-1活性を有しており、この部位のHIF-1活性上昇が腫瘍発育に重要であることを見いだした。 現在、HIF-1のmutant遺伝子を数種類作成し、細胞にリポフェクシオン法を用いて導入しHIF-1活性、VEGF発現を指標にHIF-1のdominant negativemutant遺伝子の検討を行っている。
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