癌に対する遺伝子治療に関する研究は近年急速に進歩しているが、治療に用いる遺伝子の種類や導入法等に問題があり、未だ臨床応用に充分ではない。申請者らは、固形腫瘍の増殖にはVEGFやiNOS等のいわゆるhypoxic response proteinsの発現が必須とされていることに着目し、これら遺伝子産物を転写レベルで調節しているhypoxia inducible factor-1(HIF-1)の制御を介した遺伝子治療法の可能性を検討した。 まず申請者らは癌細胞株を用いて、HIF-1活性、VEGFの発現調節にはp53の発現レベルや点突然変異の有無が関与していることを見い出した。また、P53を恒常的に発現させた癌細胞をヌードマウスに移植したところ、非発現細胞に比して、腫瘍径の増加、血管密度の亢進を認めた。さらに、膵臓癌組織を用いてP53変異の有無と血管密度を比較したところ、P53に変異を有する症例では血管密度が高かった。これらの結果は、P53に異常が生じるとHIF-1活性が亢進し腫瘍増殖能が高まることを示しており、癌のbiologyを解明する上で重要な発見であると考える。 また、HIF-1α遺伝子を癌細胞株に導入したところ、低酸素による細胞死に抵抗性を示し、逆に、HIF-1αのanti-sence遺伝子を導入したところ、低酸素細胞死が増強された。これらの結果は、HIF-1αのanti-sence遺伝子を用いた癌遺伝子治療法の有効性を示唆している。
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