1、基礎的研究 雄性ICRマウスを用い、LPS群;LPSを0.5mg/kg腹腔内投与後に大腸を切離吻合、control群;生食投与後に同様の処置、の2群を作成し、anastomotic bursting pressure(ABP)、Hydroxyproline量(Hyp)を測定した。また術後1、6、24時間後に腸管吻合部、肺、肝、腎を摘出し抗INF-α抗体、抗IL-6抗体を用いてABC法にて免疫組織染色を行い発現状況を観察した。ABP、HypはLPS群において有意に低値であった(p<0.05)。TNF-α、IL-6産生は腸管吻合部局所では、術後1時間目、6時間目ではLPS群において強く発現していた(p<0.01)。しかしIL-6は24時間目にはcontrol群で強く発現しておりLPS群ではほとんど発現していなかった(p<0.01)。また肺、肝、腎でのIL-6産生はLPS群にのみ認められ、特に24時間目の肺において強い発現が認められた(p<0.01)。 2、臨床的研究 消化器手術症例を対象に開腹時および閉腹時に肝生検し、抗INF-α抗体、抗IL-6抗体を用いて免疫組織染色を行いサイトカイン発現細胞数と術後のCRP、GOT、GPTの推移との相関について検討した。TNF-α、IL-6ともに閉腹時には開腹時と比較して有意に強い発現が認められた(p<0.01)。サイトカインの発現程度と手術時間、術中出血量は相関する傾向が認められた。閉腹時のTNF-αおよびIL-6の発現と術後1日目のGOT、GPT、術後3日目のCRPとの間に有意に正の相関を認めた(p<0.05)。術前にステロイドを投与した症例でも同様にサイトカインの発現を検討したところ、これらの症例ではサイトカインの発現が抑制されていた。 3、総括 生体に感染、拡大手術などの過大侵襲が付加された状況下では、手術局所よりむしろ重要臓器にサイトカインの発現をはじめとする生体防御反応が惹起され、逆に腸管吻合部においてはIL-6の発現および炎症細胞の浸潤が抑制されていた。すなわち高サイトカイン血症下では、創傷治癒において必須である早期の炎症反応が抑制され、創傷治癒過程が遅延する結果、縫合不全に代表される合併症が好発し、容易に多臓器不全へと進展する一連の臨床的経過を今回の研究結果から説明し得るものと考えられた。
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