研究概要 |
固形腫瘍の微小環境下では、正常組織と比べ細胞間pHは酸性化傾向にある。この原因を究明したところ、従来考えられていた解糖系より生じる乳酸に加え、TCA回路から発生する二酸化炭素の関与も重要であることが示された(Yamagata M.et al.,Br J Cancer1998)。 低pH下にある固形腫瘍の細胞内pHは正常と同程度に維持されている事に着目し、この制御機構である細胞膜上の特定のイオンポンプ(N_+/H_+ antiport、Na_+依存性HCO3_-/Cl_-exchanger)阻害剤を用いた抗腫瘍療法を検討した。対象にとして血管塞栓療法(TAE)がその治療法として有効で、同治療では腫瘍組織が酸性化し、pH制御療法が効果的と考えられた肝癌を選択した。ヒト肝癌細胞を用いたin vitro実験で、上記2イオンポンプ阻害剤(各々EIPA:5-(N-ethyl-N-isopropyl)amiloride、DIDS:4,4-diisothiocyanstilbene2,2-disulfonic acid)の6時間暴露により細胞外pHを6.6環境下で生存細胞率100分の1と著明な殺細胞効果を認めた。この抗腫瘍効果は低酸素条件下で10倍の増強を認め、少なくとin vitroでは、抗腫瘍療法薬として満足できる結果であった。 ヌードマウスを用いた移植ヒト肝癌腫瘍に対する同療法の抗腫瘍効果実験では、副作用の具現化しない量の投与で著明な腫瘍の壊死、腫瘍増大の抑制を認めた。今回、肝に腫瘍を移植する肝癌モデルの確立は、技術的・時間的問題で達成できなかったため、実際のTAE療法との併用効果については今後の検討が必要である。 また、低酸素環境耐性肝癌細胞株の解析についても、株は樹立途中であり、解析に至っていない。
|