研究概要 |
低転移性ヒト胃癌細胞株AZ521をヌードマウスの胃壁内に同所性に移植し、step-wise selection methodを用いて高リンパ節転移性株AZL5Gと高肝転移性株AZH5Gを樹立した。リンパ節転移巣形成率は、親株AZ521で25%、AZL5Gで85.0%、AZH5Gで5.0%、肝転移巣形成率はAZ521で15%、AZL5Gで5%、AZH5Gで87.5%であり、AZL5GとAZH5Gはそれぞれリンパ節転移と肝転移を選択的に生じる細胞特性を有すると考えられた。一方、同所性移植モデルでは腹膜転移を誘導しえなかったため、AZ521の腹腔内注入を行い、同様の方法にて高腹膜転移性株AZ-P7aを樹立した。腹腔内注入法による腹膜転移巣形成率はAZ521で14%、AZ-P7aで78.6%であった。 各高転移性株はいずれも親株と比較して細胞運動能および増殖能が亢進しており、これらの細胞特性は転移能の獲得もしくは増強に共通して関与する因子であると推測された。細胞接着分子の発現を親株と比較すると、AZL5GではVLA-1,-2,-3,-5の発現増強を、AZH5GではVLA-3,-5の発現増強とVLA-6の発現減弱を、AZ-P7aではVLA-2,-3,-5,-6およびαvβ3integrinの発現増強を認めた。細胞外基質タンパクに対する接着能は、AZL5Gではtype-4 collagenとfibronectinに対する接着活性亢進を、AZH5Gではfibronectinに対する接着活性亢進とlamininへの接着活性減弱を、AZ-P7aではこれらの細胞外基質タンパクへの接着活性減弱を認めた。以上より、ヒト胃癌細胞の多様な転移形式を規定する要因の一つとして、VLAを中心とする細胞接着分子発現の変化と、それによる細胞外基質タンパクとの接着活性の修飾が影響している可能性が示唆された。
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