大腸癌におけるマトリライシンmRNA発現を利用した分子生物学的リンパ節微小転移診断が従来の一切片からのみの病理組織学的診断よりも優れていること、また同様の遺伝子学的診断法であるmutated k-rasの検索よりも高感度であることはこれまでの報告通りである。ただし血中の癌細胞の確認のためには、マトリライシンよりもCEAmRNAを利用すべきであることも、前回報告通りである。これに従い、マトリライシンmRNAに対するRT-PCRを用いたリンパ節転移診断と、従来の病理組織学的診断の両者を行った結果に関して、予後との関係を検討している。本年度も引き続きマトリライシンmRNAによる診断法でのみリンパ節転移が認められ、病理組織学的にはnOと診断された症例を追跡検討しているが、いまだ特別な転移形式の表出は認められない。これらの症例中に追加の病理学的検討を行ったところ微小転移を捕捉できたものが3症例あり、これらに関しても再発は生じていない。当科の基本的手術方針は拡大郭清であるため、特に局所あるいは所属リンパ節転移の再発は起りにくいことが考えられる。リンパ節転移診断の際のマトリライシンmRNA発現に対するPCR法にもfalse positiveの可能性は残っており、これまでの定性的なRT-PCRから定量的な、RT-PCRの開発が必要であると考えられる。我々は、定量的PCR法であるTaqMan PCR法を用い、マトリライシンmRNA定量法を開発中であり、これによりcut-off値を計算することで、これまでのfalse positiveを減少させることが出来るものと考えている。マトリライシン高発現ヒト大腸癌細胞株Car-1を用いての基礎的研究から径1cm大のリンパ節中に50個の癌細胞があれば検出可能であり、これにより定量的癌細胞診断が可能となると考えられる。
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