大腸癌におけるマトリライシン(MTR)mRNA発現を利用した分子生物学的リンパ節微小転移診断に関して検討した。その精度はリンパ節1個あたり10^4個の癌細胞が含まれていれば検出可能と思われた。検出感度は従来法の一切片からのみのHE染色による病理組織学的診断よりも優れており、病理組織学的に陰性とされMTRで陽性であった症例で追加切片を作成したところ約60%で微小転移が確認された。同様の検討を病理、MTRの両者とも陰性であった症例に行ったところ、微小転移の検出は0であった。同様の遺伝子学的診断法であるmutated k-rasの検索よりも高感度であった。ただし血中の癌細胞の確認のためには、MTRよりもCEA mRNAを利用すべきである。予後との関係の検討では、MTRによる診断法でのみ陽性、病理組織学的にはn0と診断された症例を追跡検討しているが、いまだ特別な転移形式の表出は認められない。これらの症例中に追加の病理学的検討を行ったところ微小転移を捕捉できたものが3症例ありこれらに関しても再発は生じていない。当科の基本的手術方針は拡大郭清であるため、特に局所あるいは所属リンパ節転移の再発は起りにくいことが考えられる。またリンパ節転移診断の際のMTR mRNA発現に対するPCR法にもfalse positiveの可能性は残っており、これまでの定性的なRT-PCRから定量的な、RT-PCRの開発が必要であると考えられる。我々は、定量的PCR法であるTaqMan PCR法を用い、MTR mRNA定量法を開発中であり、これによりcut-off値を計算することで、これまでのfalse positiveを減少させることが出来るものと考えている。
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