膵癌における神経周囲浸潤、特に接着因子について免疫組織学的検討を中心に行った。 (方法)膵癌におけるNCAM発現の意義を検討する目的で神経浸潤の認められた15例の膵癌を対象に抗NCAM抗体を用いた免疫組織染色を施行した。 (結果)1、15例中10例(66.7%)にNCAMの発現が認められた。同一腫瘍における腫瘍中心部と神経浸潤部位の比較では染色性に差は認められなかった。しかし、NCAMの発現と神経浸潤との間には有意な相関が認められ、NCAMは神経浸潤に何等かの関係があると思われた。 2、NCAM陽性症例の神経浸潤部位を各症例10ケ所ずつ観察したところ癌細胞は72ケ所では神経周膜の間に、28ケ所では神経周膜と神経内膜の間に認められた。この際、癌細胞と神経細胞にはNCAMの発現が認められたが、両者の間に介在する神経周膜や神経内膜には発現は認められず、NCAMがホモフィリックな結合をすることを考えると、膵癌がNCAMを介した神経親和性により神経に浸潤していくという考えは否定的ではないかと思われた。 (結論)NCAMのようなホモフィリックな接着因子の発現は癌の転移・浸潤に対して抑制的に働くと考えられる。すなわち、癌細胞が腫瘍から離脱しにくくなるために、浸潤・転移は起りにくくなるわけである。乳癌の血行性転移や胃癌のリンパ節転移にみられるようなカドヘリン発現の低下、melanomaやgliomaの高転移株にみられるNCAMの発現低下などの報告はすべて浸潤・転移の初期段階において接着因子の発現低下が必要であることを示している。
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