研究概要 |
種々の消化器癌において糖鎖抗原のドラスティックな変化が見られることはよく知られており、腫瘍マーカーとして臨床でも広く利用されている。また、これらの抗原の発現・消失が癌の予後や転移と統計学的関連があることも数多く報告されている。しかしこれらの異常糖鎖の発現がいかなる分子生物学的機構によるものかはほとんど判っていない。 研究分担者(成松)は、癌関連抗原の合成に関与する新しい糖転移酵素2種(α2,6-シアル酸転移酵素ST6GalNAcI、β1,3-ガラクトース転移酵素 β3Gal-T5)をクローニングし、その解析を行った。ST6GalNAcIは、胃癌におけるSTN抗原合成酵素であり、STN陰性細胞株に遺伝子導入することでSTN抗原を細胞表面に発現した。また、胃癌組織における免疫組織委学的検討では、STN抗原とST6GalNAcI転写産物の発現はco-localizeしていた。β3Gal-T5は、癌関連糖鎖抗原CA19-9の消化管上皮における合成酵素であり、CA19-9陰性大腸癌細胞株であるHCT-15に遺伝子導入すると、CA19-9抗原を細胞表面に発現した。また、各種大腸癌細胞におけるβ3Gal-T5転写産物量はCA19-9抗原量と相関していた。 研究代表者(渡辺)は、以上2種の糖転移酵素遺伝子をSTN/CA19-9抗原陰株であるHCT-15に遺伝子導入し、安定発現株を樹立した。これらの安定発現株はSTN/CA19-9抗原を強発現していた。現在大腸癌SCIDマウスモデル(脾内注入、肝内移植、同所移植)を用いて、上記遺伝子導入株における転移・浸潤能の変化を検討中である。
|