癌が浸潤・転移する際の主病巣周囲の細胞外マトリックスや基底膜の破壊は重要なステップであることが知られている.私共はヒト消化器癌組織中のマトリックス分解酵素(matrix metalloproteinase:MMP)が癌浸潤・転移の過程で重要な役割を演じており、さらに生物学的悪性度と密接な関連があることをこれまで明らかにしてきた.胃癌に代表される消化器癌の治療成績は早期発見率の増加、集学的治療の進歩により向上したが、進行癌、とくに腹膜播種陽性例において治癒成績は必ずしも満足できるものではない.手術時に腹膜播種陽性例の1年生存率は20%以下である. 上記の状況を踏まえ、MMPによる細胞外マトリックス破壊の阻止が癌細胞の進展の抑制につながるとの仮定から本研究を計画した.合成MMP阻害剤の転移抑制効果をヌードマウス腹膜転移モデルを用いて検討した. 1.ヌードマウス腹膜播種転移モデルの確立 2.R-94138投与実験 ヌードマウスにTMK-1を腹腔内投与後、1週目からR-94138(30mg/kg)を連続5日間腹腔内投与し、5週後にマウスを犠牲死させ、腹膜播種結節の数と総重量を計測して、その効果を判定した.その結果、コントロールに比べ有意に腹膜播種形成の抑制を認めた. 3.既存の抗癌剤であるマイトマイシンCとの併用投与を行ったところ、相乗効果を認めた. 4.腹膜播種結節形成の抑制機序について免疫組織学的に検討し、血管新生が抑制されていることを明らかにした. 以上の研究成果から、MMP阻害剤を用いた新しい癌転移治療の臨床応用に向けた可能性が示された.
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