研究概要 |
癌の局所浸潤や遠隔転移において、主病巣周囲の細胞外マトリックスをはじめ脈管周囲を取り囲む基底膜の破壊が重要なステップであることが知られている。私共はこの点に着目し、以前より、ヒト癌組織中のマトリックス分解酵素(matrix metalloproteinases: MMP)が癌の生物学的悪性度と密接な関連があることを明らかにしてきた。また、癌とそれを取り巻く間質、間葉系細胞との関係について分子生物学的手法を用いて詳細に検討した。(Jpn. J. Cancer Res. 88: 401-406, 1997)。 以上の背景を踏まえ、本研究では、MMPの過剰発現が癌の浸潤・転移に関与するのであれば、MMPの活性阻害が転移の抑制につながりうることに着目して、MMP阻害剤の転移抑制効果を検証した。 研究方法と結果: 1.ヌードマウス腹膜播種転移モデルの確立 2.R-94138投与実験:ヌードマウスにTMK-1を腹腔内投与、1週目からR-94138(30mg/kg)を連続5日間腹腔内投与し、5週後にマウスを犠牲死させ、腹膜播種結節の数と総重量を計測して、その効果を判定した。その結果、コントロールに比べ有意に腹膜播種形成の抑制を認めた。 3.既存の抗癌剤であるマイトマイシンCとの併用投与を行ったところ、相乗効果を認めた。 4.腹膜播種結節形成の抑制機序について免疫組織学的に検討し、血管新生が抑制されていることを明らかにした。 MMP活性阻害作用をもつR-94138はヌードマウス胃癌腹膜播種モデルにおいて腹膜播種結節の形成を抑制した。このことから、MMP活性阻害はこれまでの抗癌剤と異なる全く新しい機序で、癌細胞の転移抑制に有用な治療手段となりうることが示された。MMP阻害剤は、悪性腫瘍のみならずリウマチをはじめとする炎症性疾患に対して欧米を中心に臨床実験の段階に入っており、今後の検討が期待される。
|