本年度は実験胃癌の自殺遺伝子治療による経時的変化を病理組織学的に検討することを目的とした。雄ウィスターラットにMNNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)を飲料水として100μg/mlで30週間投与し、60週で実験に供した。73匹中38匹(52%)に胃腫瘍が発生した。開腹後アデノウイルスベクターでHSV-TK(herpes simplex virus thymidine kinase)を5×10^8pfu腫瘍内にin situ投与し(Ad.CAGHSV-TK)、実験開始2-5日の4日間プロドラッグとしてganciclovir 100mg/mlを腹腔内投与した。開腹のみ(12匹)、ベクターのみ(5匹)を対照として、Ad.CAGHSV-TK/ganciclovirの実験群を、遺伝子治療開始後3日(4匹)、8日(6匹)、30日(5匹)に剖検した。胃腫瘍内の穿刺部位アポトーシスは治療群8日、30日で対照に比し有意に増加した(p<0.001)。腫瘍内の炎症、繊維化は経時的に増加し、壊死、異物巨細胞の出現、瘢痕化は30日で有意に増加した(p<0.05)。この結果より、自殺遺伝子治療後の原発巣の経時的組織変化として、ヒトの放射線、化学療法の著効例に類似する所見を呈することが明かとなった。また、5×10^8pfu/匹の投与量では肝障害を認めなかった。
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