研究概要 |
われわれは,肝細胞癌は90%以上の症例がB型およびC型肝炎ウイルス感染のcarrier状態(肝炎ウィルスに対する免疫寛容状態)から発生しているという事実より,その発生・進展には宿主の免疫寛容が深く関与しているとの仮説を立て,マウス肝移植モデルを用いた免疫寛容モデルによる研究を行ってきた. 平成10年度には,第一に,東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターよりマウス(C3H/He由来)腹水肝細胞癌株MH134の分与を受け,本研究で購入した凍結保存システム(ローケーター)を使用して,癌細胞株の継代培養を行った.第二に,マウス肝移植モデル(C3H/He→DBA/2)を対象として,donor由来の培養肝癌細胞(MH134hepatoma cell)を経門脈的に接種し実験肝癌の作成を試みるとともに,肝癌細胞株(C3H/He)に対する拒絶反応の高度の時期から完全な免疫寛容状態に至るさまざまな宿主の免疫学的状態における肝癌の発生・進展状況を解析した. その結果,マウス肝細胞癌株(MH134)の継代培養に成功した.さらに,10^2,10^4,10^6,10^8個の癌細胞を経門脈的に経時的に投与し,1カ月後に犠死せしめ,肝細胞癌の成立状況を検討したところ,コントロール群(C3H/He->C3H/He;syngeneic model)においては,投与時期を問わず癌細胞眼株投与後14日で,肝細胞癌結節数6.2のピークが得られたが,実験群(C3H/He->DBA/2;allogeneic model)においては,移植後14日目に癌細胞投与を行った群の肝細胞癌結節数は4.5と有意に少なく,一方移植後100日目に癌細胞投与を行った群の結節数は15.2ときわめて高い癌結節の形成が確認された. 以上の結果は,肝癌の発生・進展における免疫寛容の関与を証明したものであり,平成11年度以後は,本研究の結果に基づき,免疫寛容状態を標的とした,肝癌の新しい治療法の開発とその意義に関する研究を進めて行くつもりである.
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