研究概要 |
【目的】高齢者では術後種々の臓器障害を来しやすいとされるが,加齢時の侵襲下生体反応と臓器障害発生における詳細なメカニズムは不明である。今回,ラット肝切除後エンドトシン(LPS)投与モデルを用いて,加齢に伴う侵襲下生体反応の変化と肝細胞障害発生機構を,cytokine balance,oxidative stress,および肝細胞apoptosis誘導の面からinvivo,in vitroで解析した。 【対象および方法】60-80週齢(A群)および6-8週齢(Y群)のWistar系雄性ラットを用い比較検討した。(in vivo)70%肝切除48時間後にLPS0.5mg/kgを投与し,生存率,投与1,2,4時間後の血清TNF-α,IL-10濃度,投与4時間後の血清GPT値,肝組織過酸化脂質(LPO)量,肝組織中のapoptosis発現(TUNEL法),apoptosis促進遺伝子ICEp10の発現(免疫組織染色法)を検討した。(in vitro)両群から肝細胞,Kupffer細胞を分離し,多孔性膜で境界されたdouble chamberで混合培養,Kupffer細胞をLPS10μg/mlで刺激後,4,24時間目に肝細胞を採取した。肝細胞内過酸化物量をDCFH-DAで,apoptosis細胞をFITC-TUNEL法でそれぞれ蛍光染色しflow cytometryにて解析した。 【結果】(in vivo)生存率はY詳100%,A群10%とA群で有意に低下した。TNF-αはA,Y群とも1時間後にpeakとなり差は無いが,老齢群では4時間後まで高値遷延した。IL-10はA群で著明に上昇,4時間後まで遷延するのに対し,Y群では終始低値であった。GPT値,肝組織LPO量はA群で高く(,また,肝組織apoptosis,ICEp10発現はA群で散在性にみられた。(in vitro)肝細胞内過酸化物量は4時間後ではA,Y群に差は無く,24時間後にY群で低下するのに対しA群で上昇した。apoptosis細胞数は4,24時間後ともA群で多かった。 【結語および考察】肝切除後LPS投与により,A群では炎症性サイトカイン(TNF-α)は初期にはY群と差は無いものの遷延し,また,代償性に上昇する抗炎症性サイトカイン(IL-10)は著明に上昇,持続することから,A群ではstressに対し生体が遷延性の過剰反応を示すものと考えられた。さらにA群でoxidative stress増強と肝細胞apoptosisの増加がinvivo,in vitroでみられることから,高齢者ではsurgical stressに対する炎症反応の遷延とoxidative stressの増強による細胞障害が肝apoptosis誘導を惹起し,肝不全を発生することが推測された。
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