研究概要 |
脳細胞神経は虚血・再潅流障害に対して極めて脆弱で、中でも海馬CA1領域の錐体細胞は一過性の虚血後、エネルギー状態は回復するにも関わらず、数日後に細胞死に陥ることが知られている。この現象は遅発性神経細胞死(DND)とよばれ、そのメカニズムは十分には明らかにされていない。 方法:生後2日〜10週の雌雄スナネズミの両側総頚動脈閉鎖による一過性前脳虚血モデルを用いた。10分間の一過性前脳虚血を負荷した。生後14日(B-1群)及び30日(B-2群)に一過性前脳虚血を負荷し潅流固定を行なった。A,B群とも、海馬CA1領域クレシルバイオレット(CV)染色を行ない、残存正常神経細胞数をカウントした。B群では、海馬領域の星状膠細胞をGFAP免疫染色、稀突起膠細胞を抗CNAase抗体、小膠細胞を抗Mac-1抗体を用いた免疫染色にて親察した。 結果 A群:一過性前脳虚血処置を生後第3周目までに行なったものではCA1領域の錐体細胞が脱落しがたいのに対し、生後4周以降では脱落が著明であった。 B群B-1群の錐体細胞数には変化は見られなかった。B.2群は、1日は変化はなく、3日後にはCA1領域の内側半が著しく減少した。7日目には全領域で減少した。 星状膠細胞R-1群の第1日には肥大を示し、第3日に分子層で反応性のものが増加し、第7日では両層で免疫陽性度が低下した。B-2群の第1日目に免疫陽性細胞は、B-1群に比べ核が大きく、突起も太く、長くなっていた。第3日目は内側半は多形細胞層と、分子層との境界が不明となり境界領域に免疫強陽性細胞がふえていた。小膠細胞B-1群では第1、3、7日とも陰性であった。B-2群でも1日、3日は陰性であった。7日目には両層の小膠細胞が活性化していた。 本研究により、生後第3週までは一過性脳虚血によるDNDが起こりにくいことが明らかになった。最も興味ある反応を示したのは星状膠細胞であった。生後4週を過ぎると一過性虚血に対する海馬CA1錐体細胞のDNDは内側半から起こり、外側へ移行しCA1全域に至った。星状膠細胞もこれに応じて起こった。DNDを起こさなかった生後3週までの群では星状膠細胞の活性化反応をみとめず、星状膠細胞が細胞死により強く関与していると考えられた。
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