虚血時の肺内エネルギー代謝と再灌流障害

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10671250
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 福瀬 達郎 京都大学, 医学研究科, 助手 (90263152)
• 研究分担者: 和田 洋巳 京都大学, 再生医科学研究所, 助教授 (90167205)
• キーワード: 肺保存 / ミトコンドリア / ATP / 肺再灌流障害

研究概要

冷肺保存におけるエネルギーの状態と糖との関係を調べるために、以前に報告した同種血使用Ex vivoラット肺モデルを用い、グルコース、トレハロース、スクロース、マルトース、もしくはラフィノースを保存液に加え、保存後のエネルギー変化、再潅流後の肺機能を調べた。その結果、保存後の肺のATP,ADP,AMPは保存前と変化なく、糖による差もないこと、しかし、再潅流障害はトレハロースが他の糖と比較して優れており、糖の肺保存における役割はエネルギー源のみでなく細胞保護作用があることを証明した。
また、冷保存中の肺の血管内皮細胞のミトコンドリアの形態学的変化と再潅流障害の関係を調べるために、ラット肺をユーロコリンズ液、ウィスコンシン大学液、ET-Kyoto液、new ET-Kyoto液で保存し、それぞれの液におけるミトコンドリアの形態学的変化を透過型電子顕微鏡で調べた。その結果、保存中にミトコンドリアのdegenerationが生じており、その程度はユーロコリンズ液で顕著であることを証明した。さらに、そのdegenerationの程度と再潅流障害との関係を調べ、ミトコンドリアの障害と再潅流後の肺酸素化能との間に有意な相関が認められることを証明した。
さらに、肺保存における肺内ATPの時間的変化(6、9、12時間)と再潅流後のATPレベルの回復と肺機能の関係を調べた。その結果、保存時間が長くなるにつれ、再潅流後の肺のガス交換能が低下し、シャント率は再潅流後の肺内のATPレベルの回復と逆相関することを証明した。
これらの実験により、肺再潅流障害とミトコンドリア及び、エネルギー状態は密接に関連していることが示された。
今後、肺をdeflate,anerobicな状態などで保存し、嫌気性代謝との関連、ミトコンドリアの機能と再潅流障害の状態を明らかにしてゆく予定である。

研究成果

• [文献書誌] Ueda M,Hirata T,Fukuse T,et al.: "Dibutylyl cyclic adenosine monophosphate atenuates damage in the ultrastructure of endothelial cells in 15-hour cold preserved rat lungs." Transplant Proc. 30. 53-55 (1998)
• [文献書誌] Fukuse T,Hirata T,et al.: "Energy metabolism and mitochondrial damage during pulmonary preservation." Transplant Proc. (1998)
• [文献書誌] Hirata T,Fukuse T,Wada H: "High-energy phosphates,mitochondria,and reperfusion injury in isolated rat lungs." Transplant Proc. 30. 3377-9 (1998)
• [文献書誌] Fukuse T,Hirata T,Wada H: "Role of saccharides on lung preservation" Transplantation. (1999)
• [文献書誌] Ueda M,Hirata T,Fukuse T,et al.: "Mitochondrial Injuries in Rat Lungs Preserved for 17 Hours ; an Ultrastructural Study." European Surgical Research. (1998)