研究概要 |
【背景】心停止後ドナーからの肺移植が可能となればドナー不足の解決に繋がる。しかし、心停止後ドナーでは温阻血時間を要し、ドナー肺組織の機能低下をもたらす。我々は、心停止後、屍体内での冷気による胸腔内空冷を行ったドナー肺による移植で屍体内肺冷却の有用性を検討した。 【方法】雑種成犬10頭を用い、全身ヘパリン化後にKCLを静注し、心停止ドナーを作成した。 I群(n=5)は、室温の100%酸素にて肺を膨張させ2時間室温に放置した。II群(n=5)は、I群と同じ条件で2時間の胸腔内空冷を行った。それぞれの群で胸腔内、肺表面、気管支内温度を測定した。2時間後に両群のドナー犬を胸骨正中切開し,肺動脈より4℃のEuro-Collins液で灌流後に肺を摘出した。更に、両群の摘出肺を4℃の生理食塩水に2時間浸漬保存した。保存終了後に肺組織を病理組織学的に検討した。両群の左肺を同所性に移植後、100%酸素換気下に右肺動脈と右主気管支を10分間遮断し、移植肺機能を血行動態と血液ガス分析で評価した。 【結果】I群では、2時間後でも胸腔内、肺表面、気管支内温度はほとんど低下しなかったが、II群では約30分でそれぞれの温度は10℃前後に低下した。組織学的にはI群で軽度の肺胞内や間質の浮腫が見られたが、II群では凍傷もなくほぼ正常な組織像を示した。I群のすべてが閉塞試験に耐えなかったが、II群の5例中3例は閉塞に耐え良好な肺機能を示した。 【結語】屍体内での冷気による胸腔内空冷は、肺組織温を有効に低下し肺組織機能を維持した。 屍体内肺冷却法を用いた屍体肺移植の可能性が示唆された。
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