研究概要 |
1.高度希釈体外循環の安全限界と中枢神経に対する影響に関する検討を体重2-3kgの家兎を用い小型人工心肺による体外循環モデルを作成し、体外循環中に近赤外線モニターによる脳の酸化・還元ヘモグロビン及び酸化チトクロームCの測定を行うとともに、hippocampus CA1領域の組織学的に評価し、体外循環中の潅流星、血液希釈、血液ガスの効果を検討した(20例)。安雄したモデル作成に時間を要したため、現時点で断定的結論をくだすにはデータが不十分であるが、酸化・還元ヘモグロビン及びチトクロームCの変化から見て、Hb3.0g/dlが安全限界と思われた。組細学的検討は進行中である。 2.臨床的検討:(1)乳児用超低充填量回路(充填量350ml)を用いて、乳児開心術症例において、近赤外線分光器による脳内酸化ヘモグロビン、チトクロームC解析による脳代謝の状態と、S-100 prooteinの動態を検討した(15例)。Hb 3.5 mg/dlを下回る症例(1例)で一過性の痙攣とS-100 proteinの上昇を認めた。(2)高度血液希釈体外循環が血液凝固機能に及ぼす影響を臨床例において検討した結果、高度血液希釈を伴う無輸血体外循環でThrombin-Antithrombin complex,D-dimerの上昇(凝固系の活性化)が見られ、Antithrombin III(ATIII)の濃度低下のためヘパリンの効果が不十分で、術後に血液凝固障害がおこり出血憎加の原因となり得る可能性が示唆された。高度血液希釈を伴う体外循環中は、ATIIIに依存しない抗凝固療法を併用する方が安全と思われた。(3)生体適合性を高める目的で体外循環回路のヘパリン被覆のについては有用性が多数報告されているが、我々はヘパリンを用いない方法として、HydroxycthylmcthacrylatcとStyrcncのブロック共重合体によって回路内面をミクロドメイン構造に加工した体外循環回路を用いその生体適合性について検討した。結果、血液凝固系の活性化においては差を認めなかったが、血小板数ではミクロドメイン加工によって温存される傾向が認められた。また、ミクロドメイン)加工によって回路充填夜中のブラジキニンの活性化が抑制された。ミクロドメイン構造に加工した体外循環回路は、血液接触系の活性化抑抑を期待できる方法として有用であると思われた。
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