研究概要 |
我々は肺癌の分化に関連する新物質を探求するため,機能を持ったモノクローナル抗体の作成を行い,そのエピトープを検索することにより,癌に関連するいろいろな新物質の遺伝子クローニングを行うことにした.まず肺小細胞癌の様々な細胞株を用い,その膜表面分画でBalb/cマウスを免疫し,マウスハイブリドーマを作製した.次に,これらのマウスモノクローナル抗体の中から,肺小細胞癌株SBC-1の増殖抑制・形態変化を促す抗体を選別した.この結果,3種の異なるマウスモノクローナル抗体が得られた.これら抗体の中で2種は糖鎖を認識し,他の1種は蛋白を認識していると考えられた.このうち,蛋白認識抗体であるKM43-2だけが,無血清培地だけでなく,FCS添加培地中でもSBC-1の形態変化をもたらし,また細胞運動能も抑制することが認められた.そこで,この抗体KM43-2のepotopeを調べていったところ,分子量60Kと71Kの膜蛋白を認識していることが判明した.更に我々はこの蛋白を認識している遺伝子のクローニングを行うために,SBC-1のcDNAをこのepitopeが発現していないRaji細胞にtransfectionし,抗体KM43一2でこのepitope発現Raji細胞をセル・ソーターにより選別し,更なるtransfectionと抗体による選別を繰り返した.その結果,目的遺伝子の一部と考えられる560個の塩基配列からなるcDNAがクローニングできた.現在登録中の遺伝子との相同性を検討したが,同一遺伝子は登録されていなかったので,我々はこれをdifferentiation inducing protein(DIP)と名付けた.我々は現在このDIPのwhole cDNAを同定中である.そして,今後もこのDIPの機 能を解明し,癌細胞の分化における役割を検討していく.
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