両側大脳感覚・運動領野にてんかん焦点を持つ慢性ネコ多焦点モデルに脳梁離断術を行ない、てんかんの外科的治療に関する基礎的研究を行った。成ネコ6匹を用い、Nembutal麻酔下に定位脳手術を行い、両側感覚運動領野の皮質内にそれぞれ双極電極とカニューラを刺入した。術後1週間経過した、安静覚醒時に両側カニューラ内に注入針を挿入し、カイニン酸を10μgづつ注入した。発作波が両側感覚運動領に認められ、両側皮質焦点が十分に成熟した注入後2時間目に、Nembutal軽麻酔を行い、手術用顕微鏡下に脳梁離断術を行った。離断術前後の脳波を観察し、カイニン酸注入後24時間目に10%ホルマリン液で脳を潅流固定後に前額断のスライスにして、HE染色にて鏡検した。 <結果>すべてのネコに、両側性にそれぞれ独立した皮質焦点発作が誘発された。発作波は始めは左右ばらばらに出現する傾向が認められたが、発作重積状態になった2時間後には、殆ど左右同期して、発作波が出現するようになった。脳梁離断術直後から、発作波はそれぞれ独立して出現するようになり、左右同期しないようになった。病理組織では、全脳梁が離断されていることを確認した。 <考察および結論>両側感覚運動領野にそれぞれ独立したてんかん焦点を作成したところ、発作波および発作も左右同期して初発するようになった。しかし、脳梁離断直後から、発作波が左右非同期して出現するようになったことより、脳梁は左右の脳皮質てんかん焦点の同期化に重要な働きを持っていることが明らかになった。この事実は、臨床において、両側大脳半球に異なった発作焦点を持つ多焦点の症例には、脳梁離断術では左右の発作波の同期化のみが改善されることを示しており、離断後も、各半球に発作は残存することが考えられる。 以上の結果を踏まえて、脳梁離断術の手術適応は、慎重に決定されなければならないことを明らかにした。
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