(目的)当研究では、腫瘍細胞がもともとアポトーシス関連遺伝子の異常がありアポトーシスを起こしにくい事を利用して、腫瘍特異的な細胞障害を得るような治療法の開発を目的とした基礎研究を行っている。本年度は、1.様々なアポトーシス関連遺伝子の導入が、腫瘍に細胞死を誘導するか、特に腫瘍特異的なプロモーター、との併用はどうか、2.腫瘍特異的に増殖するアデノウィルスベクターの抗腫瘍効果はどうか、に関して検討を行った。 (結果)1. 1) Fas ligand、Fas、FADD、caspase-8及びBaxは癌(特にグリオーマ)に効果的にアポトーシスを誘導したが、caspase-3は効果的ではなかった。 2) 悪性神経膠腫特異的に発現するmyelin basic protein promoterの併用にても、caspase-8は効果的にアポトーシスを誘導した。 3) caspase-8によるアポトーシスはBcl-2、Bcl-XLでは抑えられず、癌の治療に有用である事がわかった。 2. 腫瘍特異的増殖型アデノウィルスベクターはグリオーマ特異的に増殖し、in vitro、in vivoにおいても、従来の増殖型アデノウィルスベクターに比べて、殺細胞効果が高い事がわかった。 (考察)本年度の研究によって、様々なアポトーシス関連遺伝子をアデノウィルスで導入する場合に、癌のアポトーシスを起こしにくいメカニズムに打ち勝ち殺細胞効果を誘導するにはcaspase-8が有用である事がわかった。これらのアポトーシス関連遺伝子を利用した治療は、癌への特異的な、効率の高い導入方法と組み合わせて、今後の治療に応用可能であると思われる。また癌がアポトーシスを起こしにくいという事は、ウィルスが増殖しやすいという事であり、腫瘍特異II増殖型アデノウィルスベクターの導入が(ウィルスによる)発癌のメカニズムの1つと密接に結びついた、根治的な治療となる可能性がある。今後このウィルスベクターの臨床応用を検討していく予定である。
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