研究概要 |
くも膜下出血(SAH)後における脳血管の一酸化窒素(NO)作動性神経による神経性調節の変化を形態学的に調べるため、NO合成酵素(NOS)含有神経の免疫組織化学的および組織化学的検討を行った。400gの雄性SDラットを用いて右頚部内頚動脈経由で挿入した3-0ナイロン糸にて血管内より突き抜く実験モデルにてSAHを作成した。経時的に灌流固定し両側の脳主幹動脈および翼口蓋神経節(SPG)を摘出した。脳血管はwholemount標本にて、SPGは凍結切片として神経型NOS(nNOS)、内皮型NOS(eNOS)、誘導型NOS(iNOS)の免疫染色およびNADPHdiaphoraseの組織化学染色を施行した。結果は、nNOS含有血管周囲神経線維およびSPG内nNOS含有細胞はSAH直後よりその密度が漸時減少し24〜48時間では、最も低下しその後、徐々に回復した。この脳血管のnNOSの染色性の低下は反対側に比しSAH作成側において、より強くかつ遷延化する傾向にあった。eNOSおよびiNOSの免疫染色性は経過中、血管周囲神経線維およびSPG内神経細胞においては認められなかった。SAH後の脳循環動態にNO作動性神経による神経性調節機構の障害が関与していることが示唆された。このため次年度は、くも膜下出血後の脳脊髄液中のnitric oxide産生に関わるアミノ酸を中心として測定を行った。くも膜下出血後Day7〜11に脳咳受益を採取した10例の女性(平均年齢54.3歳)(SAH群)と突発性正常圧水頭症およびくも膜下出血後1ケ月を経過した10例の女性(平均年齢65.3歳)(コントロール群)を対象として、脳脊髄液中の41種類のアミノ酸HPLC法にて定量した。結果として、SAH群の脳脊髄液中のThreonine,Asparagine,Glutamine,Valine,Histidine濃度はコントロール群に比べて有意に上昇していた。また、このうちでGlutamic acidに関しては、SAH群の8名で上昇し、その平均値は15.7±10.6nmol/mlであった。一方コントロール群では、全ての脳脊髄液中にはGlutamic acidは検出されなかった。ArginineとCitrullineの濃度には、両群に有意差を認めなかった。今回の研究を通して、くも膜下出血後の病態に脳血管および脳脊髄からの分析より、NOを介する血管攣縮の発生機構が存在する可能性が推察された。
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